リアリティと人間の本質を掘り下げる視点

 私の好きな山崎豊子さんは社会派小説の名手として知られ、代表作には『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』などがあります。これらの作品は映画やテレビドラマにもなっていますが、彼女の作品は、綿密な取材に基づいたリアリティと、人間の本質を深く掘り下げる視点が山崎豊子が「すごい」と言われる理由だと思います。

私の子育て中、小学校の図書館に新刊として入った『沈ま́ぬ太陽』をドキドキしながら読んだ事を思い出します。日本航空の事故を題材に、組織の不条理や人間の苦悩を描いて社会の闇を暴く視点は、単に事件や出来事を描くだけでなく、主人公の苦悩や葛藤を通して、人間の強さや弱さ、そして生きる意味を問いかけているように思いました。

専業主婦で社会とは隔離された子育て時代、不安の中で共感や希望を与えられました。

 

そんな山崎豊子さんの遺作『約束の海』を読み始めました。なかなか読み込めず何度か挫折していましたが、一念発起して読むことにしました。この作品は海上自衛隊の潜水艦「くにしお」と釣り船の衝突事故を題材にした作品です。この事故で多くの犠牲者が出た後、若き潜水艦乗組員や遺族たちが、苦悩や葛藤を抱えながら成長していく姿を描いています。筋書きは『沈まぬ太陽』のようです。山崎豊子さんは、この作品に、戦争を知らない世代に平和とは何かを問いかけるという強い思いを込めて執筆し、全3部を予定していたそうですが、第1部が掲載されたのち、死去されたため、未完の絶筆となりました。巻末には、構想メモを元に編集部が注釈を付けてまとめあげ、残り2部の粗筋が「あとがき」として掲載されて居ましたが、山崎豊子さんの 戦争を2度と起こしてはいけないと言う思いを、表現で読みたかったと思います。 読者の想像に任せるという結末になっていますが、想像が膨らまないので残念な読書に陥ってしまいました。

 

80歳代後半にもなって、取材を重ねて、これ程重厚な題材に挑む山崎豊子さんは凄いと思います。戦争、軍人、自衛隊、潜水艦、防衛について、思いを馳せる終戦記念日となりそうです。